Archive for the ‘初心者のためのデザイン心理’ Category

サンポノめいしのフォント選び。

2020.2.1

今日は珍しく(?)フォントの話です。
知らない人もいるかもしれないので説明すると、フォントというのは文字の種類です。
Windowsを使っている人でいうと、「MSゴシック」や「Century」などがあるでしょう。
あれがフォントです。
 
先日リリースした、「サンポノめいし」で選べるフォントは2種類あります。
明朝体と言われる、筆で書いたときの溜まりや払いがあるフォントと、ゴシック体と言われる溜まりや払いがないフォント。
さらに、明朝体からは「筑紫明朝」を、ゴシック体では「中ゴシック」と「Helvetica Neue」を組み合わせて、それぞれ選定しています。
 
明朝体とゴシック体のフォント選びはデザイナーに依るところがありますが、基準値レベルの高さで選ぶのなら、選択肢は限られます。
その上で、使用目的や使用媒体、印刷方法の制限もかけていけば、さらに選択肢は少なくなります。
 
筑紫明朝は、長文用フォントとして可読性が高く、オフセット印刷でも写植時代の名残りを表現できるフォントです(写植についてはまた後日話します)。
インクの溜まりや払いをしっかりと表現しながら、窮屈にならないで、ゆったりとした心地よさがあります。
一見すると、長文がないように見える名刺ですが、ロゴで効果を発揮するようなフォントを選んでいると、住所表記などがとてもアンバランスで窮屈な見え方になります。
そのために長文用フォントを使用した方がいいのですが、味も素っ気もないのでは、自分(自社)という看板を伝えるのにいかがなものか。
このあたりの絶妙なバランスを叶えてくれるのが、筑紫明朝です。
 
一方のゴシック体。
明朝体ではなく、ゴシック体を選ぶ理由のひとつは、機能性です。
明朝体で表現されてしまう品の良さは、場合によっては、事業内容とミスマッチになることもあります。
優れた機能性、利便性を売る場合は、必要以上に品格を売りにするのは鼻につき、かえって邪魔になります。
こういう場合はゴシック体を選ぶのですが、ちょっとした品格はアクセントとして大事なところです。
 
これを叶えてくれるのが、中ゴシックとHelveticaです。
中ゴシックは、ゴシック体の中でもフラットになりすぎず、若干のインク溜まりなどがあります。
さらに、文字のフォルムとして全体的に小さめに作られているので、文字としても窮屈にならずに、可読性を高めてくれます。
例えると、美味しい蕎麦に薬味のアクセントがピリッと効いている感じでしょうか。
こういう安心感が、中ゴシックにはあります。
この中ゴシックに合わせるのが、Helvetica Neueです。
日本語ゴシックの半角英数字は、どうしても日本語よりになってしまい、欧文だけで並べたときのバランスが悪くなってしまいます。
たとえば、URLやメールアドレスなどです。
どうしても、欧文の美しさが弱くなってしまうと言ったらいいのでしょうか。
これを解決してくれるのが、Helvetica Neueです。
 
日本語が多くなってしまう日本語名刺に、邪魔にならずに欧文を使うためには、日本語フォントを基準として欧文フォントを合わせる方法になります。
そして、ちょっとしたアクセントがある中ゴシックには、Helvetica系のフォントが似合います。
Helveticaの他にも、ゴシック系の可読性の高い代表格に「Universe」「Avenir」「Frutiger」などが挙げられますが、今回の中ゴシックと合わせるのなら、HelveticaかFrutigerを選びます(ぼくはね)。
その上で、Helveticaを合わせる理由は、Frutigerよりもクセが少ないこと。
Frutigerが遠くからの視認性を高めるために誕生した背景から、今回の「名刺」商品においてはクセがほんの少しだけ強いのです。
そのために、Helveticaを採用しました。
 
以上が、サンポノめいしで使用しているフォントの選定方法です。
一口にフォントと言っても、フォントが生まれた背景や浸透具合から利用用途は様々です。
ぼくらデザイナーは簡単に選んでいるように見えてしまいますが、こういった知識を積み重ねて、そう見えているのです。
こうやってフォントについて知ると、世の中に出回っている名刺のフォント、それで合っていますか?と疑問を投げたくなるものもたくさんあるでしょう。
いいものに触れる機会が多ければ、フォントの名前を覚えなくても、身体に染み込まれているものです。
変な使い方を見れば、何かが気持ち悪くなります。
あなたはどうですか?
 

サンポノめいしの仕組み。

2020.1.31

「サンポノめいし」をリリースして、話がいろいろやってきます。
これについて詳細に説明していくのも野暮なので、「どうしてここまで費用を下げられたのか」について話していきます。
 
最大の理由が、「依頼ではなく、注文にした」ところです。
基本的にぼくらの仕事は医者の仕事と同じように、患者であるクライアントの話を聞いて、課題を見つけて、処置をしていきます。
現状の課題をクリアする治療的なデザインもあれば、未来の課題リスクを減らすための予防診療的なデザインもあります。
どちらにせよ、クライアントの相談に乗りながら、解決に向かっていくのです。
この課題解決のプロセスによって、クライアント毎の個別の解決方法となり、費用が高くなっていきます。
それは、クライアントが法人であっても、個人であっても同じです。
これを変えたのです。
 
優れたデザインというのは、どんなデザインであっても、一定の基準値以上のクオリティが備わっています。
万年筆であっても、テニスラケットであっても、車であっても、椅子であってもです。
それ故に、ユニークなオリジナリティを求めた「これがいい」と言われる商品群と、基準値レベルが高い「これでいい」と言われる商品群があります。
例えば、万年筆であれば、前者は「モンブラン」さんで、後者は「パイロット」さんかもしれません(ちなみにぼくはパイロットさんのキャップレス万年筆を愛用しています)。
車であれば、「レクサス」さんと「トヨタ」さんでも分けることができます。
さらに、それぞれのブランドの中でも、ハイレベルを求めた商品と、スタンダードを高めた商品があります。
そして、基準値レベルの高い「これでいい」の代表例は、「ユニクロ」さんや「無印良品」さんです。
彼らの商品はユニークさを削ぎ落とした結果、ファッションや生活の基準値を底上げするブランドになりました。
 
ユニクロさんや無印良品さん以降の、一般人の服装や生活意識のレベルは高いと言えます。
それは、昔のアイドルと一般人の服装や髪型を見れば、違いは一目瞭然でしょう。
これが、今ではその違いを顕著に言い表すことが難しくなってきています。
つまり、一般人の基準値が高くなっているのです。
もちろん、今も昔も、極みに達している人たちを比べたら、段違いだというのはわかります。
けれども、差が縮まっているのは、一般人の服装や生活レベルが高くなっているからです。
 
話を戻すと、極みを目指すデザインではなく、ユニクロでスウェットパーカーを選ぶように、決まったデザインの中から名刺を選ぶ方法にすれば、費用が下げられるのです。
そして、この方法で売っていくためには、名刺の完成品が基準値以上のレベルであることです。
これが、町の名刺屋さんや印刷屋さんとは違うところです。
印刷屋で名刺を作ろうとすると、機械的に情報を流し込むだけになります。
すると、それぞれの文字の形にあった、文字間隔の調整がされません。
また、目立たせるところは、徒らに目立たせようとして、大味になります。
さらに、紙質も安価なものを使用します。
この三点から、どうしても基準値が下がった名刺になってしまうのです。
 
つまり、選択式であることと紙質を優れたものにするところまでは決めておいて、文字情報の流し込みはデザイナーの手作業で仕上げていくことにすれば、費用を下げながら基準値レベルを高くすることができるのです。
そのため、価格としては町の名刺屋さんよりも高いと思いますが、それはもうお客さんの金銭感覚に委ねるしかありません。
「ここまでなら商品として提供することができる」と判断できた、最小金額を設定しています。
その上で、「お前が優れたデザイナーかどうかなんてわからんだろうが」と言う人がいたら、それはもう「お客さんにならないで下さい」と言うしかありません。
どんな人を救って、どんな人をハッピーにしたいか、というのは事業をする上で決めていますから。
「サンポノめいし」は、商品の価値がわかる人(わかろうとする人)をお客さんとしています。
そういう人を、ぼくは助けたい。

開業副業支援名刺制作サービス「サンポノめいし」はじめました。

2020.1.30

1月29日は、サンポノから新しいサービスがリリースされました。
その名も「サンポノめいし」。
内容をさらっと言っちゃうと、副業や個人で事業をしている方を対象とした名刺制作サービスです。
本当、これだけです。
 
このサービスをはじめた理由は、普段、ぼくらの仕事は法人企業だったり、ちゃんと稼げている個人事業主だったりします。
副業でも開業でもスタートしたての個人の方は、ぼくらに報酬を支払えるだけの稼ぎはないのが常です。
すると、どうなるのか。
知り合いのデザイナーに頼んで、安くやってもらうか無料でやってもらうのです。
 
ぼくも以前、友人だった人がお店を開業する際に、広告ツールを依頼をされたことがあるのですが、いざ金額の話になった際に「友達と楽しいことをしたかったんだよね」と言って、結局依頼はなくなりました。
このブログの読者なら分かると思いますが、その人がやったことは、ていのいい無賃労働や踏み倒しですからね。
この人は、他の人にも色々依頼していたみたいで、それぞれとトラブルを発生させていたようです。
依頼をする以上は「知らなかった」じゃ、済まないことです。
 
一方で、間違った装いで事業をすれば、事業失敗の確率は上がります。
それは名刺ひとつからはじまります。
ぼくは仕事を失う三要素に「不潔・不健康・不満」を挙げていますが、そのひとつ「不潔」の印象を持たれるのが装いです。
髪の毛がぼさぼさ、爪が伸びっぱなし、ボロボロのジーンズに、汚れた靴の人と、これとは真逆の清潔感のある人がいたら、どちらに仕事を依頼しようと思うかは明白です。
モラハラという言葉が生まれましたが、たとえ口に出さずとも、不潔に思われることは、その人の人格や仕事のクオリティを心配されます。
同じように、自分の好みを周囲にひけらかすような、けばけばしい格好も、安心して仕事を渡せません。
これらは見た目からその人の内面を判断されているのです。
そして、これがデザインに力を入れた方がいい理由なのです。
 
世の中の大企業がデザイナーを大切にする理由は、自分たちの仕事を適切に伝えてくれるのがデザインだと理解しているからです。
身の丈に合わない装いをさせるのでもなく、安っぽい装いをさせるのでもなく、自分たちの思想や哲学と商品を、適切な形で伝えてくれるのがデザインです。
そして、デザインが自分たちの事業の利益を向上させる手助けをしてくれることを、彼らは高いお金を支払ってデザイナーから学び、デザイナーを必要としてくれているのです。
 
けれども、まだ世の中は、身の丈に合わない装いや安っぽい装いのためのデザインをしがちです。
そのために、適切なデザインをすることが、差別化につながるのです。
 
特に、実績がわからないような開業したての頃であればなおさらです。
法人であれば、投資額や融資額は上げられるでしょうが、個人であれば難しいでしょう。
なるべくなら、開業資金は抑えたいのが、大方の願いじゃないでしょうか。
そうであれば、知り合いのデザイナーを騙すような依頼をするのではなく、堂々と注文できた方がいい。
その方が、彼らが事業を続ける上でも、胸を張っていられるのではないでしょうか。
 
業界の仲間が苦しむのも見たくないですし、頑張っている人を応援したいのも、ぼくの本音です。
こういう理由から、「サンポノめいし」をはじめました。
この名刺がちょっとでもお役立てできたら幸いです。
詳しくはこちらからご覧ください。
 
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開業副業支援名刺制作サービス「サンポノ名刺」
選んで作る、うれしい名刺。
商品ページはこちら。
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マル秘展に行ってきた。

2020.1.24

21_21デザインサイトで開催中の「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」に行ってきました。
基本的に、デザインという仕事は、完成されたものだけが世の中に出回るのですが、完成形になる前の原画が展示されています。
日本に住んでいたら、一度は目にしたことがあるような仕事の数々。
その仕事の胎児にあたる原画が並んでいます。
 
色んな仕事があるし、色んなやり方がありましたが、ひとつ、共通して言えるのは「目の解像度の高さ」です。
目の前に起きていることを掴み取る解像度、想像上に広がる景色を見る解像度、目の前に現すときの解像度、説明された人の反応を予測したり、受け取るときの解像度。
これらすべてに「目」が関わっているのですが、この「目」の解像度が極めて高いです。
こういった共通項を見つけるのには、いい展示会でした。
 
ひとつだけ物足りなく感じたのは、ひとりひとりを知るのには、その人を特集した書籍を見た方がいいと感じたこと。
何人か、影響を受けた人がいたけれど、その人たちについては、ちょっと物足りなかったんです。
違う発見もあったけれど、もっと「動き」たかった。
 
こうやって考えると、展示会というのは体験の場であって、咀嚼とは違う満足が必要なんでしょう。
まだ展示をしていた頃、「展示はライブだ」と言っていたことを思い出しました。
ちょっと恥ずかしいですけどね。
けれど、若く生意気な自分が言っていたことは、あながち間違ってはいなかったようです。
子どもが立って好奇心が刺激されて動き回るように、展示会というのは好奇心をくすぐられて、導かれて動きます。
椅子に座って、じっくり、よく噛んで、飲み込んで、自分の栄養にする方法とは違うんですよね。
そういう意味では、咀嚼するシーンが多い、味わい深い展示会でした。
図録でないかなぁ。
超欲しい。

どんな人をお客さんにしたいか。

2020.1.18

「やらないことを決める」という大切さがありますが、デザインというのはこの連続だなあ、と度々思います。
街中のデザインを見ていると、色んな色を使って、色んなことを謳って、色んな絵柄を載せているもので溢れています。
するとどうなるか。
安っぽくなるんです。
GUCCIなどのメゾンブランドでは、そんな広告みないですよね。
ぼくの好きなエディ・スリマンがクリエイティブディレクターを務めているセリーヌの広告もそうです。
メゾンブランドの広告って、ほとんど決まっているのです。
つまり、要素を減らせば減らすほど、高級感や高い品質を伝えられるのに、みんなこの逆をします。
その理由を端的に言えば、「みんな勇気がない」からです。
減らすことは勇気が必要です。
だって、お客さんになる可能性が減っちゃうかもしれないから。
 
けれど、考えて欲しいのが、「どんな人をお客さんにしたいか」です。
昔、日本では「お客様は神様です」という言葉が生まれて、今日に至るまで長いことこの言葉が生きていますが、そのせいで、お客さんにしなくていい人まで、お客さんにしなきゃいけない不安や欲望に駆られています。
新しく会社を建てる人の相談を受けるとき、必ずこのことについて考えてもらうようにしています。
もちろん、ぼくも考えます。
どういう人をお客さんにしたいか、どういう人の助けになりたいのか、どういう人を救いたいのか。
「やりたいこと」「得意なこと」「必要なこと」を事業にするというはじまりから、実際に動き始めてから集まってくるお客さんはどういう人がいいのか。
欲望に支配されたら、そりゃあ全員をお客さんにしたくなるでしょうが、その中にはどうしようもない人も紛れているわけです。
でね、大事なのが、そういう人には、お引き取り願うってことです。
断る軸を持っておくんです。
 
「カスハラ」という言葉が生まれているけれど、これを生んだ原因って、やっぱりね「売りたい欲望」が強い会社が多いってことなんです。
極論を言えば、売ることが目的となった会社にとってみたら、売る商品はなんだっていいわけです。
そういう商品を買ったお客は、当然、嫌な思いをします。
嫌な思いを一度、もしくは何度か経験したら、何かを言いたくなるでしょう。
そして、元から怒鳴る人であったら、カスハラになりかねないです。
 
だから、こういう人を生まないためには、断る態度も大事ですが、売りたい欲望をなくすことなんです。
「いいものを作る」という毅然とした態度と、「断る」という毅然とした態度というのは、実は同じです。
売るのではなく、商品について適切に伝えて、相手がいいと思ったら、買ってもらう。
こういう広告づくりって、デザインがよくないといけないんです。
デザイン経営と言うと、売上を上げる方法のように語られてしまうけれど、経営者を賢者にしていくことでもあるんです。