UXデザイナーが育っていない日本。
2016.8.29
最近、事業者やデザイナーたちと会い、協力させていただくことが増えていく中で、「日本ではUXデザインのスキルが育っていない」と気付いた。
UXデザインとは「製品やサービスとユーザーが関わったときに、ユーザー満足度を向上させるためのデザイン手法」と言える。今までグラフィックデザイナーやWebデザイナーとして経験を積んできた人達からすると「そんな当たり前なことを、今更何を言ってるのか?」と思うのかもしれないが、これが実践できていないことが多いのが現状だろう。
日本では海外とは異なり、デザイナーやディレクターが役割として存在しているのではなく、デザイナーとして経験を積んだ人が、その後、デザイナーの上司としてディレクターとして昇進する縦社会が当たり前になっているため、ディレクターを名乗っている人でも「UXデザイン」への習熟度は同じように低い。
では、「わかっているけれど、実践できていない」現場では何が起きているのか? ユーザー=顧客=クライアント(制作会社の顧客)という、「クライアント至上主義」が染み付いてしまい、本当のユーザーであるエンドユーザーよりも、クライアントの言ったことを叶える方に重点を置いてしまっているのだ。クライアントの言ったことを鵜呑みにし、叶えようとすることを何年も経験するうちに、エンドユーザーを置き去りにし、いつの間にか「クライアントが何を言っているのかわからない」ということさえ生じてくる。
しかし、広告でも製品でもサービスでも、エンドユーザーがそれらと接触するタイミングや、使用中のこと、リピーターとして使っているときのことを考えると、クライアントが気付いていない自社製品の長所を見つけることができる。そういった長所は、クライアントが「大したことはない」と思っていることが多いので、それを掬って形にし、ユーザーの満足度を向上させる接点へ導くことが、UXデザインになる。
カンヌライオンズ受賞作で見るUXデザイン
話は少し飛んでしまうが、国際的なデザインやプロジェクトの祭典であるカンヌライオンズも今年の受賞作が発表された。数年前までは優れた広告に賞が与えられるコンペティションだったが、近年では趣向が変わってきており、社会的に意義のあるプロジェクトに賞が与えられるようになってきている。今年でいえば「識字率向上を啓蒙するプロジェクト」や、「重度の呼吸器疾患に苦しむ人々が、1週間でアポロシアターにてコーラスを開催するドキュメンタリー」などが受賞している。
つまり、社会的にアプローチするプロジェクトに評価や関心が集まってきており、それを見たユーザーは、Webサイトなどでより詳しくプロジェクトや問題について調べるようになる。ここではユーザーは2種類存在し、プロジェクトのテーマになっている人々(識字能力がない人や呼吸器疾患の人)と、そのプロジェクトを見た人々である。
ドキュメンタリー映画「happy」でも取り上げられているように、生得的に人は、他者と協力することで幸福感を得られると言われている。そして、幸福感が長寿などの健康と結びついているというのも知られており、先のようなプロジェクトを見たユーザーが、プロジェクトに投資をしたり、プロジェクトを通さずとして対象となる人に協力したりすると、それでも幸福感は高まるということだ。同時に、そういった協力が増えれば、当事者であるユーザー(識字能力がない人や呼吸器疾患の人)にもプラスに働く。
実はこれもUXデザインが働いていて、ユーザーの満足度(=幸福度)を向上させることを手伝っている。プロジェクトの動画やWebの見た目も美しく、グラフィックデザインやWebデザインの手法が軽んじられている訳ではないが、ここでは医療や心理学、教育といった他のジャンルと言われてきた専門性も組み合わさっている。
一方で、デザイン部門でグランプリを獲得もした日本企業の受賞作を見ていると、今までのようにウィットを効かせたビジュアル押し、ドラマ仕立ての冗長な企業広告を未だに作っており、海外受賞作と並べると、そのズレは認めざるをえない。
これは、その広告を見たユーザーが何を感じ、その後、どのような行動をとって欲しいのかよりも、自社の価値を伝える方を優先させてしまっているためであり、「自社のイノベーション」「自社のドラマ」を押し付けている以外、何もない。受賞作に出ていた充電式電池だが、現に私は、電池を充電式に変えることにより、生活は変わったし、心理的にも随分ストレスは減った。つまり、電池を充電式に変えるというのは、優れたUXデザインになるにも関わらずだ。
今までのように、見た目の装飾をつくることに固執してしまえば、デザインはいつまでもグラフィックデザインやWebデザインのままだし、企業の伝えたいことを一方的に形にしてしまえばユーザーは離れていく。しかし、ユーザーとの関係性ということを考えれば、あなたのデザインはUXデザインに変わっていく。それを実践するためには、グラフィックやWebのスキル以上に、他のジャンルのスキルを吸収し、自分のものとしていく努力が必要である。
最近、事業者やデザイナーたちと会い、協力させていただくことが増えていく中で、「日本ではUXデザインのスキルが育っていない」と気付いた。
UXデザインとは「製品やサービスとユーザーが関わったときに、ユーザー満足度を向上させるためのデザイン手法」と言える。今までグラフィックデザイナーやWebデザイナーとして経験を積んできた人達からすると「そんな当たり前なことを、今更何を言ってるのか?」と思うのかもしれないが、これが実践できていないことが多いのが現状だろう。
日本では海外とは異なり、デザイナーやディレクターが役割として存在しているのではなく、デザイナーとして経験を積んだ人が、その後、デザイナーの上司としてディレクターとして昇進する縦社会が当たり前になっているため、ディレクターを名乗っている人でも「UXデザイン」への習熟度は同じように低い。
では、「わかっているけれど、実践できていない」現場では何が起きているのか? ユーザー=顧客=クライアント(制作会社の顧客)という、「クライアント至上主義」が染み付いてしまい、本当のユーザーであるエンドユーザーよりも、クライアントの言ったことを叶える方に重点を置いてしまっているのだ。クライアントの言ったことを鵜呑みにし、叶えようとすることを何年も経験するうちに、エンドユーザーを置き去りにし、いつの間にか「クライアントが何を言っているのかわからない」ということさえ生じてくる。
しかし、広告でも製品でもサービスでも、エンドユーザーがそれらと接触するタイミングや、使用中のこと、リピーターとして使っているときのことを考えると、クライアントが気付いていない自社製品の長所を見つけることができる。そういった長所は、クライアントが「大したことはない」と思っていることが多いので、それを掬って形にし、ユーザーの満足度を向上させる接点へ導くことが、UXデザインになる。
カンヌライオンズ受賞作で見るUXデザイン
話は少し飛んでしまうが、国際的なデザインやプロジェクトの祭典であるカンヌライオンズも今年の受賞作が発表された。数年前までは優れた広告に賞が与えられるコンペティションだったが、近年では趣向が変わってきており、社会的に意義のあるプロジェクトに賞が与えられるようになってきている。今年でいえば「識字率向上を啓蒙するプロジェクト」や、「重度の呼吸器疾患に苦しむ人々が、1週間でアポロシアターにてコーラスを開催するドキュメンタリー」などが受賞している。
つまり、社会的にアプローチするプロジェクトに評価や関心が集まってきており、それを見たユーザーは、Webサイトなどでより詳しくプロジェクトや問題について調べるようになる。ここではユーザーは2種類存在し、プロジェクトのテーマになっている人々(識字能力がない人や呼吸器疾患の人)と、そのプロジェクトを見た人々である。
ドキュメンタリー映画「happy」でも取り上げられているように、生得的に人は、他者と協力することで幸福感を得られると言われている。そして、幸福感が長寿などの健康と結びついているというのも知られており、先のようなプロジェクトを見たユーザーが、プロジェクトに投資をしたり、プロジェクトを通さずとして対象となる人に協力したりすると、それでも幸福感は高まるということだ。同時に、そういった協力が増えれば、当事者であるユーザー(識字能力がない人や呼吸器疾患の人)にもプラスに働く。
実はこれもUXデザインが働いていて、ユーザーの満足度(=幸福度)を向上させることを手伝っている。プロジェクトの動画やWebの見た目も美しく、グラフィックデザインやWebデザインの手法が軽んじられている訳ではないが、ここでは医療や心理学、教育といった他のジャンルと言われてきた専門性も組み合わさっている。
一方で、デザイン部門でグランプリを獲得もした日本企業の受賞作を見ていると、今までのようにウィットを効かせたビジュアル押し、ドラマ仕立ての冗長な企業広告を未だに作っており、海外受賞作と並べると、そのズレは認めざるをえない。
これは、その広告を見たユーザーが何を感じ、その後、どのような行動をとって欲しいのかよりも、自社の価値を伝える方を優先させてしまっているためであり、「自社のイノベーション」「自社のドラマ」を押し付けている以外、何もない。受賞作に出ていた充電式電池だが、現に私は、電池を充電式に変えることにより、生活は変わったし、心理的にも随分ストレスは減った。つまり、電池を充電式に変えるというのは、優れたUXデザインになるにも関わらずだ。
今までのように、見た目の装飾をつくることに固執してしまえば、デザインはいつまでもグラフィックデザインやWebデザインのままだし、企業の伝えたいことを一方的に形にしてしまえばユーザーは離れていく。しかし、ユーザーとの関係性ということを考えれば、あなたのデザインはUXデザインに変わっていく。それを実践するためには、グラフィックやWebのスキル以上に、他のジャンルのスキルを吸収し、自分のものとしていく努力が必要である。