観
2012.2.16日々のこと「観る」とはどういうことだろうか? 作品を発表するようになってから10年が経ち、数々の展示会を経験してきたが、作品をつくればつくるほど「観る」ことが不確実であるという意識は増すばかりであった。大学時代に心理学・認知科学を学ぶことで、人間における視覚の機能についての理解を深めてきたが、この作品には、「観るとはどういうことか?」という問い、「観ることへの態度」、そして、「僕には見えてしまったが、一般的には見えないであろう、この世に生まれなかったであろうものたち」——それらを描くことによって、「観る」という答えを示したかったのだが……。
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答えは——「光の軌跡」だった。見えないけれども見えるものが描画となり、ニードルで削ると紙表面の乳剤が雪の結晶のように煌めく。畢竟、僕は「光を描く人」(写真=Photograph=Photo:光を+Graph:描く=Photographer=光を描く人)だったのだ。写真を意識せずに制作した作品でさえ、写真に導かれていた。生きている人の光を観て、問いが生まれ、答え(作品)を出す、それは肖像写真でもあり、その人における個人史を凝縮し、人が生きた証を共有させる仕事なのだ。