単純な能力こそ大事な理由。

2020.1.13ビジネスの健康, 初心者のためのデザイン心理

昔のやり方と変えた方がいいものと、変わらないでいいことというのがある。
とても当たり前なはじまりになってしまったが、しばしば思うんだよね。
 
昔のやり方と変えた方がいいと思う代表例は、「あの頃はよかったんだぞ」と言われているようなことだ。
高度経済成長の時代や、バブルの時代をバリバリ働いていた人たちが、当時を懐かしんで、美化して話している内容は、ほとんどが今では通用しないことだ。
むしろ、当時の日本の経済成長の中身を見てみると、まったく低い労働生産性だったことは、周知のことだ。
高度経済成長と言われていた時代も、円とドルとの関係によって、成長が促されたという説だってある。
これを物語るかのように、やはり労働生産性は当時から低いのが日本だったのだ。
今更ぼくが言うことでもないが、GDPは「人口×労働生産性」なのだから、人口が多ければ、自ずとGDPは高くなる。
日本の一億人超えの人口は、世界的に見てもトップクラスの多さなのだ。
 
一方で、昔から変わらないでいいことというのがある。
それは、人間としての能力だ。
だから、正確には「変えようがない」と言った方が適切だ。
マンモスを追いかけていた頃から現代に至るまで、人類の脳味噌は変わっていないと言われているが、そこまで遡らなくても、現代人と呼ばれる人間の能力が変わっているはずもない。
それにも関わらず、現代人は昔の人に比べて、基本的な能力が低くなっているのではないだろうか。
それは、ここ50年ぐらいを見ても言えるだろう。
それは、どの職業においても「単純なこと」をさせてみると、能力の低さがよくわかる。
 
例えば、デザインという仕事で言うと「文字間隔」だ。
現代っぽい文字感覚もあれば、昔っぽい文字間隔というのはある。
だが、大前提として、「ちゃんとしている文字間隔」があるのだ。
それが、できない人が多い。
ぼくらの年代でも、かなりの人数ができない。
 
これは、それを身につけなくても、お金を稼げるようになってしまったということだ。
この代償は、安い仕事が増えているということでもあるのだが。
「ちゃんとしている文字間隔」を現せないデザイナーが増えると、基準となるレベルが下がっていく。
基準値が下がって、生じるのは金銭的価値が下がるということだ。
 
なぜならば、作ることはできないけれど、それがわかる人は「ちゃんとしている文字間隔」を現せる人のお客さんとなる。
すると、お客さんが確保できない「現せないデザイナー」は、わからない人(文字間隔などどうでもいい人)をお客さんにするしかなく、そういう人というのは値段を下げるしかなくなる。
差別化というのは、「ちゃんとした能力」がある人たちによって行われている方法であり、そうではない人たちが利益を上げようとすれば、薄利多売の方法をとるしかなくなる。
そして、数として、デザイナーもお客も、「わからない人たち」が多くなってしまうのだから、下がった基準値が日本産デザインのスタンダードとなっていき、業界全体が薄利多売の方法をとるようになっていく。
工場製品と違って、人の手を動かす業種での薄利多売の方法が先細りなのは目に見えている。
 
何もこれはデザイン業界に限った話ではないと思う。
演劇の舞台でも「ちゃんと立てる人」が少なくなっていると聞いたことがある。
知識は増えているかもしれない。
だが、知識を活かすための、土台となる能力が低ければ、増えた知識が活かされることもない。
頭で何でも解決できると思ったら大間違いだ。
手足を動かしてこそ、「ちゃんとした能力」というのは身に付く。
横着がってちゃいけないよ。

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