Project 01: Satoyama Marugoto Hotel
Project 01: Satoyama Marugoto Hotel
受賞:Red Dot Award: Brands & Communication Design部門(独)
能登半島にある小さな集落を、ひとつのホテルに見立てた里山まるごとホテル。開業前の2016年から関わりはじめ、現在も関係が続いているサンポノを代表する仕事となった中身をご紹介します。
里山まるごとホテルの事業を説明すると、築170年の歴史ある茅葺き屋根の建物を中心とし、地域全体をひとつのホテルに見立てることで、能登半島の豊かな自然をまるごと体験できる場所にしています。さらに、輪島市に暮らしている人たちとも協力体制を築くことで、次世代につなぐコミュニティ形成の場としても機能しています。
石川県輪島市三井町の特徴として、空港からのアクセスの良さが挙げられます。しかし、それは同時に、秘境やアウトドアのような特別な風景や体験とは異なります。旅行者にネガティブギャップを発生させないように、この要素を逆手に取り、秘境などの不安もなく、里山暮らしを手軽に体験できて、祖父母の家に来たようなほっとする場所というアイデンティティを見出しました。
広大な場所の中にあって、車で移動する人たちにも視認しやすく、地域の人たちにも愛着を持ってもらうために、ロゴを含めたデザインは分かりやすさと展開のしやすさを基準としました。輪島塗からインスピレーションを得たブランドカラーは、地域の誇りでもあり、緑豊かな自然の中にあっても、丁度いいバランスで求心力を発揮しています。
地域ブランディングが失敗する要因のひとつとして、地域住民の不安を考慮していないケースがあります。本案件では開業前からここに配慮して、ティザーサイトと公式SNSを用意しました。開業までの過程をオープンにすることで期待感を持たせながら、周辺住民や協力者の不安をケアしています。また、周知活動以外にも、取材申込のための場としても機能しました。
古民家を改装した宿泊施設「中右衛門(なかよも)」は、空間の余白を大きくとり、どこにいても腰を落ち着かせたり、寝っ転がることができるように設計してもらいました。何もない土地でのんびり過ごせるようにテレビは置かず、里山暮らしを体験できるプランを多く用意することで、暇を持て余すこともありません。この地を選ぶ人たちが本当に望むことを考慮して、ハコとコトが設計されています。
旅行者におすすめの場所を提案することから始まった観光マップ。オーナー夫妻が本当に薦めたい店舗や場所のみを掲載しています。旅の思い出が書けたり、お薦めを書き込めるように余白を多くして、裏写りしにくい紙を選んでいます。サイズを大きくすることで、グループで見ることができ、雑談の種の役割も担っています。書き込むことで完成する大人の自由研究をイメージしています。
この業界の人であれば知らない人がいないほど、里山まるごとホテルの成果は上がっています。世界三大デザイン賞であるRed Dot Awardの受賞、クラウドファンディングによる250万円を超える支援金、国内外の各種メディアでの紹介、内閣総理大臣の表敬訪問など、数えきれないほどです。しかし、私にとっての成果は、彼らの事業が継続し、移住する前から相談を受けていた友人が結婚と出産を経て家族を持ち、今でも輪島に住み、健やかに生活していることです。