死んでいる人と死んでいない人の違い

2011.3.9日々のこと

 本は常に何冊かを同時進行で読んでいるが、その1つ『パラドックス大全』に懐かしさを覚える。子どもの頃に疑問に思い、青年期あたりで答えに辿り着いた考え事が載っていて、「あぁ、あの問題は誰それが言っていたな」と先人の素晴らしさと人間の変わらなさ、そして、それを知らずに考え、自分の言葉として大発見をしたと喜んでいたら既に言われていることへの落胆など、様々な懐かしい情景を覚えるのだ。ある1つの考えから、また別の考えへと繋がっていく様子も合致していると、「あぁ、そんなもんなんだな」と諦めるしかないが、いかんせん僕はまだ死んではいない。正確に言うと、まだ考えることができ、それを人に伝える手段を持っている。

 仮に死んだとしても、無にならずに死んでいない状態と同じように考えることが出来たとしても、死んでいない人間にその考えは伝わっていない。それ故に、死について語っているのは全て死んでいない人間なのであり、未だに解けない謎として「死」が浮かび上がってくるのだ。

 そして、幸か不幸か、先人たちは既に死んでおり、たとえ考えることが出来ているとしても僕達にその考えを伝えることは出来ていない。なので、僕は、彼らの死後の言葉や考えを全く聞くことはなく、その先の謎や命題について考えることが出来るし、伝えることができるのだ。それさえも幸か不幸かはわからないが、先人と僕との決定的な差である。それを理解するだけで、僕は人生に彩りや豊かさをもたらすことができるし、故人に「ありがとう」と言える。

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